いい日、旅打ち。 - 公営ギャンブル行脚の文化史

 公営ばくち全場制覇の(主に)競馬ライター須田鷹雄さんが旅打ちの本を書きました。結論から言いますととてもよい本です。ばくち客だけではなく旅行好きの方に読んでもらいたい。そういう意味で新書というフォーマットで出したのはGJでしょう。

 第1章では公営ばくち旅打ちの歴史が語られます。たくさんの資料を読み解き、競馬しかなかった戦前から旅打ち文化について詳述しています。戦前や戦後すぐが旅打ちの全盛時代だったことに驚き。そりゃまあ電投や場外がないわけですから当たり前と言えば当たり前なんですけど。

 次章からは旅打ちの実践編です。どんな準備をすればいいか、どんな楽しみ方があるかを様々な観点から解説しています。実際に訪れたばくち場の具体例も豊富で、それが著者が競馬場の、あるいは競輪場のスタンドで佇んでいる様子が目に浮かぶようなリアルな筆致で描かれています。出不精のわたしも思わず旅打ちに出たくなります。

 著者がばくち場として高く評価するのは昭和レトロな雰囲気を色濃く残している場です。わたしも何度か書いていますが(これとか)、また個人的好みもそういう場なんですが、ばくち未経験者でもそういうレトロな雰囲気を楽しみたいという層はいるはずです。この本でそういうばくち場巡りの楽しみを世に出してくれたことは大変うれしく思います。

 第8章ではなんとエア旅打ちと題して電投やネット投票、CS放送やネットライブのガイドをしています。それだけでは観光の要素がないですからwikipedia自治体のサイトで彼の地の情報を得るなどの方法も提示していますが、これはちょっとこじつけっぽいですね。と、ここまで読んでハッと気づきました。著者はばくち客に対する旅打ちの勧めだけではなく、あとがきにもチラッと触れられていますが、昨今の公営ばくちの窮状を憂い、客の裾野を広げんとしてこの本を書いたんだということを。新書ならばくちに縁のない方の目に触れる機会も多くなりますからね。それを最大限に活かして新規客を増やし、公営ばくちの存続に繋げようという真の意図が見えるんです。なんとも痛快じゃないですか。

 これはほんと応援したい。みんなで買ったり本屋に注文したり図書館にリクエスト出したりしましょうよ。もちろん読み物としても一級品です。あと、衰退する公営ばくち場の食事関係に対する提言にも一章が割かれていますよ。施行者のみなさんもこれを真摯に受けとめて欲しいです。

 読み終わったわたしはとりあえず旅に出たくなりました。リハビリ兼ねて近場から、玉野記念か松山ナイターに行ってみようかな。