自由化と分厚いセーフティネット〜競輪の大幅な制度改革について。

 16日の産業構造審議会車両競技分科会(参照・議事要旨)を経まして、競輪の大幅な制度改革についてのパブリックコメント募集が出ています(参照)。あとてんこ盛りの審議会配布資料(参照)。

 今回の改革につきましては先行して報道されました控除率の引き上げが大きくクローズアップされている感がありますが、資料などを通して改革全体を見ますと、それは一部に過ぎないことが分かってきます。表題にも書きましたが、今回の改革を一言で表現しますと「自由化と分厚いセーフティネット」ということになると思います。すなわち、自由化で競争とイノベーションを生み出し、なおかつそこから脱落する施行者にも今までになく厚く手当をしています。セーフティネットの原資は事業仕分けの結果、JKAの補助事業が縮小されることになったことによって生み出されました(資料2-3一番上)。

 と書きますとなんだか経済政策の教科書みたいですが、重要と思われる制度改正を詳しく見ていきましょう。主に資料2-3資料3(いずれもPDFファイル)を用います。なお、オートレースのことは門外漢ですのでここでは採り上げません。

 資料とは順番が前後しますが、まずは自由化です。

 第一に、物議をかもした控除率の上限引き上げです(資料3 Ⅱ 2(1))。新聞報道ではさきほども書きましたように控除率の引きあげだけが注目されましたが、前回法改正で控除率を20%まで下げられるようにしたこととセットで考えますと、控除率を20%〜30%の範囲内で施行者が決定できるようになったとするのが妥当でしょう。控除率を下げることのできる制度は施行者にさっぱり利用されませんでしたけど、今回上げることもできるようになったことで、前回改正が生きてくる可能性もあります。意欲と懐の余裕のある施行者は、賭け式ごとに控除率を上げ下げして経営上の最適解を見出そうとするかもしれません。また、報道後、控除率が一気に30%に上昇する危険性を危惧する声が多く上がりましたが、そこまで危険な賭けに出るかというと疑問です。某施行者さんが議会の委員会でざっくりと「1%上げたら1億円の収益増」と話したそうですが、それからも分かりますように、上げるとしてもせいぜい1,2%の上昇でしょう。わたしは競輪メインときどき分からないなりに競艇、という30台半ばのばくち打ちですが、今から競艇ないし他のばくちを本腰入れて勉強する手間やコストを考えますと、1%のアップは受容します。2%ならちょっと考えますけど。もし上限いっぱい上げるとすればキャリーオーバーのある重勝式でしょうか。

 第二に開催回数、開催日数等の規制の廃止です(資料3 Ⅱ 2(2))。今まで法令上で決められていた開催回数や開催日数も自由化されます。とは言っても施行者間での調整はなされるんでしょうね。どこの競輪場も連休しか開催しないみたいなことになると大変ですし。しかし、全競輪場での総開催日数みたいな縛りすらないのでしょうか。ちょっとこのあたり分かりません。競輪選手数はどんどん減らす方針のようですが(資料2-3(3))、選手数に見合った開催日数がなければ選手としても困るでしょう。この部分の制度改正がイマイチ具体的に見えてきません。
 
 
 次に競輪施行者に対するセーフティネットに関してです。

まず特定交付金還付制度の廃止とそれに伴う交付金率の引き下げです(資料3 Ⅱ1.(1))。これは事業仕分けで廃止と判定された事業です。交付金率の引き下げは還付制度より施行者に不利益になっては意味がありませんから、詳細はまだ発表されていませんが、少なくとも1%は引き下げられるのでしょう。現在の交付金率は約3.1%ですからキリのいいところで2%というところでしょうか。1.8%くらいまで行けばだいぶ楽になる施行者は多いと思われますが。

 そして、これこそまさにセーフティネットですけれども、赤字施行者に赤字相当額ないし1号,2号交付金いずれか少ない方の額を還付する制度が出来ます(資料3 Ⅱ1.(2))。これによって実質的に赤字を免れる施行者は多くなるでしょう。自由化によって可能となった思い切った経営をバックアップする制度とも言えます。ぜひとも攻めの経営に舵を切って欲しいと思います。

 また、自由化のところで触れました開催日数規制の廃止も、販売規模の小さな競輪場にとっては、赤字開催を減らすことができるという意味で救済的に働きます。

 それでも多額の累積赤字を抱えて、新しい還付制度でなんとか単年度赤字だけは免れているような競輪場は西日本の郊外中心に出るかもしれません。また、そういった場は地域の雇用の大きな受け皿となっていることも多く、なかなか廃止に踏みきれません。そこで、観音寺がそのモデルケースとなりましたが(参照)、廃止競輪場の場外転用が促進されるようです(資料2-3(3))。これは競輪全体の売上規模をキープすることに繋がります。観音寺のような売上げ規模の競輪場でも、昨年の時点で岸和田から借り受けのオファーがあったように、すでに発売施設があることも考えるとサテライトとしては魅力的なんですよね。


 以上見てまいりましたが、基本的にはこの改革には賛成です。ただ懸念としては自由化に関する部分で、冒険的な控除率を設定して大やけどを負う競輪場が出ないかということと、開催日数の自由化に伴う混乱はないのかという点です。特に後者ですね。ちょっと今出ている資料では詳しいことが分かりませんけれども、うまく制度を詰めていって欲しいと思います。


 上の段落でまとめましたようなことをパブリックコメントに書こうと思います。皆さんも思うところを書いて出してみてはいかがでしょうか。ただ、これはパブリックコメント一般に言えることですが、一部環境団体のようにテンプレートとなる文章を用意してそれをみんなに出させるような署名的なことはやめましょう。パブリックコメントはそういう制度ではありません。