笹川良一研究


笹川良一研究―異次元からの使者

笹川良一研究―異次元からの使者


 98年に出て当時ちょっと話題になった本ですが、図書館で借りて今頃読みました。そういえば今年は没後10年ですね。


 基本的には、生前悪評判ばかりだった笹川の汚名を晴らすことを主眼にしているようです。その点、戦前戦中、そして自ら乗り込んだ巣鴨プリズンでのエピソードは実に面白く、著者の主張する笹川の人物像にも説得力があります。なんだか読んでいて元気が出るほどの快人物伝です。


 しかし、競艇開張後の部分は、まるで日本財団のパンフレットのような具合で、笹川の慈善活動をひたすら並べています。この辺は少し物足りません。例えば、著者によれば笹川は権力とは常に距離を置いていたそうですが、すでに先発の競輪が社会問題化していた中で競艇事業をスタートさせるには、際どいことも含めて相当なロビー活動が必要だったはずです。そのへんの具体的な記述はほとんどありませんでした。また、笹川は統一教会が設立した国際勝共連合の初代名誉会長だったわけですが、これに関する記述はわずかに1行でした。これでは、都合のいいことだけ書き並べていると思われても仕方ありません。その前の部分までは面白かったのに。


 しかしまあ、創始者の伝記があるというのは、競輪客的には少しうらやましくもあります。競輪も、認可の際にはGHQと倉茂貞助の間に面白いエピソードがあったり、草創期には騒擾事件も多々ありました。この辺の話をダイナミックかつ詳細に書いた本があればとても面白いと思うのですがどうでしょうか。数年後には、「興亡史」が書けるようになっているかもしれませんが。