前残しの芸術


 昨日のエントリのコメントのお返事を書いてて思い出したのですが、全盛期の内林といえば先行選手の前残しが最高に上手でした。昔のように肉体的ブロックで捲りを止めるのではなく、最終バック過ぎからときには5〜6車身に達するほど先行選手との車間を切り、後ろをチラチラ見ながら後方の捲りを牽制します。見られている捲り屋は仕掛けどころを逸してしまい、内林の横に並ぶことなく不発に終わるというわけです。


 わたしはズブズブ車券が好きなのでこれにはよくやられました。特別競輪などの強豪メンバーのレースで、逃げては2着までに残らないだろうと思って切り捨てた山本真矢や川原義哲を内林はこのスーパー車間切りでもって2着に残し、ズブズブ車券をよく紙屑に変えてくれたもんでした。このスーパー車間切りは前田拓也や兵藤一也などタテ脚のある若いマーク屋に受け継がれもしましたが、この連中はよく差し損ねて顰蹙買ってますよね。内林はそんなことは滅多になかったもんでした。

 
 今日の宮杯決勝戦でも佐藤慎太郎が3番手に入った兵藤を警戒して車間を切り、結果的に前の山崎を差し損ねてしましました。佐藤は車間を切らなくても山崎に逃げ切りを許してしまったことがあるくらいですから、ちょっとこれはチョンボかもしれません。5年早いですね。山崎に宮杯をくれてやって、平の全日本選抜を山崎使って勝つつもりの腹で実際勝ってしまったら謝りますけどね。


 内林に話を戻しますと、印象に残ったインタビューというのがあります。2000年の名古屋全日本選抜初日のこのレース、内林は一周以上駆けた村上義弘を例によって車間切って庇いに庇い、僅差の3着に残しました。レース後インタビューでインタビュアーが
「村上選手を懸命に残そうとなさってましたね?」
と尋ねました。普通ならば、
「村上クン、一生懸命駆けてくれたからね。なんとか残してやらんと…」
などと答えるところですが、内林は一瞬間をおいてはにかみながら
「手駒は多いほうがいからね」
と一言。


 最高にクールでした。