刑務所の風景

刑務所の風景―社会を見つめる刑務所モノグラフ

刑務所の風景―社会を見つめる刑務所モノグラフ


 刑務所というところは基本的に入ったことある人しか分からない閉じた世界でありまして、入ったことあるまたはそこを飯のタネにしていた人の書いたものでしか、そこに入ったことのない人は様子を知るすべはないのですが、その手の本の中ではこれ→刑務所の中 (講談社漫画文庫)
と並ぶ秀逸な本ではないでしょうか。

 
 著者は現大学教授の元法務官僚。というわけで『刑務所の中』とは違ってそこを飯のタネにしていた側の人ですが、暴露本的な雰囲気は微塵もなく、刑務所の中の管理する側される側の様々な人間を観察することによってこの社会でなにが起きているかを俯瞰するような書き方になっています。


 特に前半の様々な受刑者を取り上げた各章では、いかに今の刑務所が社会から排除された者たちの最後の居場所になっているかが生々しく描かれています。仕事にあぶれた高齢者、精神障害者、薬物中毒者、外国人…ワイドショー的視点では凶悪フィルターをかけられる人たちばかりですが、実際の彼らは孤独で弱い。ゆえに犯罪を繰り返し、中には刑務所内での作業でしか自己実現できない人も。著者はだから社会が悪いなんて言ってるわけではないですが、自分たちの社会はどないですねんということを自然と考えさせられる、それゆえ好著と言えるでしょう。


 ところで競輪も社会的にやや排除されておりますが、それはやはり悪いイメージばかり先行している部分もあるのでしょう。競輪に関わる人たち、選手を始めとしてその家族や競輪場の職員、そしてもちろん競輪客のありのままの姿を、読み手に想像力を発揮させるような形で伝える書籍があればいいのにと思います。


 ちなみに高松競輪場と高松刑務所はとっても近所です。元競輪客の受刑者さんは屋外運動中に鐘の音が聞こえたりすると疼くでしょうねえ。