競輪場再生の罠

地域再生の罠 なぜ市民と地方は豊かになれないのか? (ちくま新書)

地域再生の罠 なぜ市民と地方は豊かになれないのか? (ちくま新書)

 ひと月以上前に読んだ本なのですが、ニュースがネタ切れ気味なので今さら紹介しますよ。

 地方のドーナツ化や街の中央商店街の衰退が叫ばれて久しいですが、最近は再生の成功事例なんてのも結構でてきています。本書はちまたで成功事例と呼ばれるものの実態を明らかにしつつ、ほんとうの成功事例から、地方再生への処方せんを導き出します。

 なかなか面白かったですよ。類書ですとすぐに規制緩和によるロードサイドの大型店やショッピングモールの隆盛に飛びつき、街中の問題点を見過ごしがちですが、本書は逆に郊外化に触れずに徹底的に街中の問題点と改善点を洗い出します。なんともいさぎよいのです。

 ほんとうの成功事例としては久留米市武雄市も載っています。武雄市は市長のトップダウンで大胆な試みを多く行ない、害獣として困っていた猪を名産品にまで押し上げました。つい最近も市の職員全員(でしたっけ?)にTwitterアカウントを持たせる試みを初めています。武雄競輪場職員の方をフォローしてますけど、その辺のマスコットキャラアカウントよりよっぽど有意義な情報発信をなさってますよ。

 後半で語られる地方再生への3つの提言は競輪場にも応用できるのではないかと思いました。競輪場に今ある資源を活用できるものだったからです。

 まず1つめはB級グルメの振興。競輪場のリニューアルやお客の減少で衰退しつつあるとはいえ、競輪場は隠れたB級グルメの宝庫です。しかし隠しておくのはもったいないですね。せっかくのB級グルメブームなんですから。もっとこの辺りをアピールしましょう。食堂をこざっぱりしちゃったところは見直してみましょう。やる気のない食堂を抱える競輪場は食堂の主人とともに戦略的にあり方を検討してみましょうよ。

 2つめ。空きスペースにスポーツクラブを作る。スポーツクラブは滞留時間も長く、身体を動かすと喉も乾けばお腹も減ります。食事施設の需要増にも繋がります。また、スポーツを通じた交流は楽しいものです。競輪場だと、常時は無理にしても、道場を開放することができれば施設の有効利用になります。また、売り場が閉鎖されたところで体操や軽いヨガの教室を開くのもいいでしょう。平均年齢の高い競輪客の健康増進を図ることによってその健康寿命を延ばすことができれば、競輪の寿命も延びるかもしれません。もちろん新規客の呼び込みにも。

 最後は2つめとも関連しますが、お客の交流を促すスペース作りです。若者も老人も孤独な世の中ですが、競輪場の年寄りは結構気軽に交流を楽しみます。そういった魅力を孤独な市民に発見してもらって、競輪場を市民の交流の場にしてしまいましょう。最近改装される競輪場は施設をコンパクトにすることだけに重点を置いているように見えますが、交流に重点を置いたスペースを考えましょう。テーブルの形や配置ひとつから変えられますよ。

 結構地方の自治体職員の皆様には耳の痛い話が多い本書ですが、競輪場職員に限らず地域をどうにか良い方に変えたいという志のある方には是非とも読んで欲しい一冊です。