読んだ本と読んでない本

東京番外地

東京番外地


 森達也

条件としては、過剰であることか希薄であること。つまり平均値から逸脱していること。あるいは自由であること。あるいは澱のように滞っていること。つまり、メガロポリス東京が経済や文化の発展や爛熟を象徴するのなら、そのエアポケットのような地域や施設 (P218)

 を編集者とともにダラダラ歩いた、ルポルタージュというには軽妙、かつ、問題意識の喚起もそれほどなく、やる気があるんだかないんだかよく分からない森節が堪能できる一冊。本書で取り上げられるそういう場所は、東京拘置所、山谷ドヤ街、渋谷モスク、皇居、歌舞伎町、食肉市場などなど。


 硬派だったり左翼だったりする森の読者はこれ読んでがっかりするかもしれないですねえ。でも答えの出ない(かもしれない)ことをまったりと考え続ける森の本質が一番出ている本でしょう。時に笑いながら考えながら、楽しくあっという間に読了。


 後楽園ホールの回では隣の場外馬券場の描写が出てくるのですが、競馬場も歩く候補に挙がっていたとか。番外地というなら府中競馬なんかもってのほか、大井競馬でもまだぬるい、平日の立川か京王閣でしょう、行ったことないけど。もしまたこういう企画があるのなら競輪場へ是非。競輪場ってまさに上に引用したような場所ですからね。過剰な人情と自由。因果な大人と因果な老人が澱のように溜っております。本が一冊書けると思いますよ。


 次は、読んでないけど検索していて気になった本。

サインの報酬

サインの報酬

 アマゾンの紹介文によりますと

昭和30~50年代の競輪黄金期の裏側で起った八百長レースに、公正対策の専門機関として審査部が設置された。その審査部長として不正対策に専従した著者が赤裸々につづった、昭和の実録競輪事件史。

  

 昔の競輪では八百長事件で密かにバンクを去る選手が何人もいたと言う話は最相葉月の本で読んだことがありますが、実際にその調査に当たっていた当時の職員が書いた本ということのようです。興味はありますけど、なんで今頃感の方が強いですね。この著者の名前でさらにググるとこんなんでました。↓

國民新聞(平成14年7月)日本自転車振興会 腐敗の実態


 記事の真偽のほどは知りませんけど、最終的に競輪組織の相当上のほうまで登りつめた人であることは確かみたいですね。「自らが携った競輪の暗部を晒して金儲けをしている!」という批判は当たらないでしょう、きっと。この本の出版元は自費出版の会社ですからお金を出しているというかボラれているのは著者のほう。どうせこんなテーマの本、数少ない競輪客のごく一部しか買わないでしょうし。*1ただ、なぜそうまでして八百長競輪の過去を開帳したくなったのかは気になるところです。自分の書いた本を本屋に並べてみたいという純朴な虚栄心を抱いたものの、ネタはこれくらいしかなかったというところでしょうか。
 

*1:わたしも図書館にあったら読んでみるリストに入れております。