二段駆けお好きですか?

 Twitterのわたしのタイムライン上では最近二段駆けについての議論がアツいのです。発端はと思い返しますと、向日町記念の決勝(参照)からだったかな。


 
このレースは京都勢が藤木村上兄弟と並んで、柴崎弟、北津留、海老根の別線と対決したのですが、藤木が打鐘前2角から全開で飛ばします。いくら仕掛けの早い藤木とは言ってもこの仕掛けでゴールまでというのはしんどいですね。ちょうど一周ほど駆けたところで番手の村上兄が発進。それをゴール前ぎりぎりで弟が交わして優勝しました。

 わたしはこのレース、兄-弟からの3連単で勝負していました。だから一二着ウラですね。二段駆けは予測していましたけどあれほど早く藤木が全開で踏むとは思ってなかったのです。普段どおりに打鐘くらいから7割くらいの力でカマシを封じながら駆ければ普通に直線ズブズブだし、誰か捲りが来れば村上兄が張りながら踏むだろうくらいの予想です。

 このレースが物議を呼びました。藤木はそりゃ同じ京都の村上兄弟に比べれば格下ですけれども、相手となる他の自力と比べれば決して見劣りする選手ではありませんから、その藤木が死ぬことに対する違和感の表明が多かったのです。まあわたしはといえば、京都内部での序列とか結束力とかを甘く見すぎていたなあとは思いましたが、違和感までは感じませんでした。しかしそういう意見もなるほど理解できない訳ではありません。


 話はガラっと変わるのですが、『弱虫ペダル』という高校ロードレース漫画があるんですね。自転車競技のことなんかシラネーヨという向きもあろうかと思いますが、ちょっとだけお付き合いください*1

弱虫ペダル 1 (少年チャンピオン・コミックス)

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 今連載ではインターハイ最終日*2が佳境を迎えていまして、ライバルチーム同士が激しくしのぎを削っています。ロードレースという競技は基本的にチームスポーツで、エース以外のメンバーはエースのサポートにまわります。ただしレースの様々な場面でサポートにも見せ場はあります。しかし今は最終局面、両チームのメンバーたちはエースのために先頭を引っ張っては次々に力尽きて行きます。その死に様は子供の頃に観た『無敵超人ザンボット3』のラストを思い出させます。競輪で言いますと日韓競輪やかつての国際競輪のロケット打ち合い二分戦みたいなもんですね。

 それでまあそういう、次々に仲間のために倒れていくというお話が盛り上がるんですよね。掲載誌もプッシュしています。みんながみんなじゃないでしょうけど、そういうのを好きな人も多いんでしょうね。


 さて、競輪の二段駆けに話を戻します。以上のことも踏まえながらちょっとわたしなりに考えた二段駆けに対する競輪客の態度を類型化してみます。


1.二段駆けに好意的なグループ
(1)二段駆けは予想しやすいから好きである。
(2)二段駆けはラインの人間関係が感じられて好きである。


2.二段駆けに否定的なグループ
(1)二段駆けは勝つつもりのない選手が走っているのでレースの公正を害するとする立場。
(2)二段駆けはレースを単調にしておもしろくないとする立場(本命戦になってつまらないというのも含む)。


3.中間的なグループ
(1)二段駆けも数ある戦法のひとつであり特別な感情を持たないという立場。
(2)明らかな格下が先頭で死ぬのは許せるが、京都ラインの藤木や関東ラインの平原or武田のように他と互角の戦いができる自力が死ぬのは納得いかない。


 こんなところでしょうか。皆さんはどれに当てはまるでしょうか。もちろん重複することもありましょうし違う立場もありましょう。わたしは3(1)を基本としつつレースによって1の各要素を感じることがあります。コンドルの社長さんなんかは1(1)みたいなことをよく書きますよね。


 しかし2(1)はどうしても無視できない意見です。なぜならば競技規則でこのように定められているからです。

敢闘の義務  選手は、暴走、過度の牽制等をしてはならず、勝利を得る意志をもって全力を尽くして競走しなければならない。
    (1)暴走して勝機を逸したと認められる場合
    「例示」
     通常のスパート時期より相当早くスパートしたが、他の選手に追い抜かれ、先頭で決勝線に到達した選手より、6秒程度以上離れて決勝線に到達したとき。

 このように競技規則に敢闘義務が定められている以上、現状はその違反を見逃していることにならないかとの疑問は当然です。初心者にも説明しずらいですよね。しかし制度設計上、「勝利を得る意志」の判定は選手の主観を裁くことになるため大変難しい。そのために客観的に判断できる基準を「例示」しているのですが、いわゆる「6秒ルール」の適用例はあるのでしょうか。聞いたことがありません。なかなか6秒遅れることは大変なようです。力尽きた選手も失格にならないように必死で踏んでいるのでしょう。

 また、他に暴走行為を抑止するためのルールとしては先頭員早期追抜きの禁止があります。こちらはまれに適用があります(最近の例)。実際にはこのルールがあるために6秒ルールが適用されるほどの暴走が抑止されている印象を受けます。


 このように暴走を抑止するための規制は、現状かなりゆるく設定されていることが見てとれます。では6秒ルールの秒数を短縮してはどうでしょうか。この制度設計は難しいところです。勝負事ですから、二段駆けに限らず力尽きて遅れる選手はいます。そのような選手を失格にしてよいのか。かといって規制が死文化している現状が好ましいとも思えません。ゴールタイムの1着と9着のタイムがどの程度離れているのか、クラス別の統計データを元に精密な検討が必要となります。
 先頭員追抜きラインを現状より後ろに設定し直すのはどうでしょうか。実は先頭員追抜きラインにまつわる規制は今までもコロコロ変わってるんですよね。あんまり頻繁にいじりまわすのは好ましくありません。また、追抜きラインをあんまり後ろにもっていくのは攻め手を狭めることにつながり、二段駆けとは別のレースの単調化をもたらします。

 あるいは誘導速度を早くすることで先頭員早期追抜きを不利にし、早い仕掛けを抑止するのはどうでしょう。これでは競輪ではなくケイリンになっちゃいますね。ケイリンガールズケイリンだけで結構でござる。


 そこでルールや先頭員をいじらずに二段駆けをほどほどに抑止するために、ちょっと考えた案があります。現在出走表の成績覧には決まり手とともにS(スタート)H(ホーム線)B(バック線)の先頭通過回数が表示されています。これは客だけではなく選手にとっても大きな指標になっています。よく、「今は意識的にバック数を増やしている」みたいなコメントを聞きますよね。バック数が自力選手としての大きなステータスとなっているんですね。ここにもうひとつパラメータを加えましょう。それは最終直線入り口先頭通過回数です。ゴール前という意味で仮に「G」とでもしましょうか。Gを計数して表示されるようになれば先行選手の最大のステータスはG数になるでしょう。Bを取ってもそれから捲られては後ろのマーク選手は大変だからです。G数が多い先行屋はゴール前までマーカーを連れていってくれる航続距離の長い機関車です。当然マーカーからの信頼は厚くなるでしょう。捲り屋さんもなるべくG数をつけてマーカーの信頼を勝ち取りたいところです。逆に追込みや自在選手はG数を付けたがらないでしょう。先行選手を庇わない選手と見做される恐れがあるからです。前の選手との信頼関係に響きますね。

 やってみないと分かりませんけれども、これだけでも犠牲的な先行を少しは減らせないかなと考えます。先行選手の直線まで先頭で帰ってくるインセンティブと自在・追込みの仕掛けを遅らせるインセンティブを高めるわけです。かくのごとく規制によらずして、主にインセンティブなどによってなるべく自由意志を尊重しつつ人間の行動を望ましい方向に導く方法が最近注目されています。なかなか面白いですよ。

実践 行動経済学

実践 行動経済学

インセンティブと言えば、今思いついたので考えなしにここに書きますが、遅れる秒数が大きいほど9着賞金を減らしてもいいかもしれませんね。同じ9着でも混戦の9着と大きく遅れた9着に差をつけるのは不合理とは思いません。


 さて、これはひとつの叩き台です。二段駆けについては皆さん、いろいろ思うところがあると思います。二段駆けのここがよい・悪い。こうすればいいなどのご意見がありましたらぜひコメント欄にお寄せください。

*1:面白い漫画でわたしは大好きです。競輪編が出ないかなあ。

*2:現実のインターハイロードレースはワンデーレースですが。