『グランプリ』は競輪啓蒙小説の基準作。
- 作者: 高千穂遙
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2011/06/23
- メディア: 単行本
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もう発売から2ヶ月になりますけど、高千穂遙さんの『グランプリ』を読みました。結論から言いますと、わたしも含みますけどドロドロの競輪客にはちょっと物足りない内容かもしれません。なにせ、レース描写がほとんどないんですよ。これにはちょっと拍子抜けしました。各章はG1開催の名前になっていまして、章の最後にチョロッと描かれるその開催の決勝戦に向けて人間ドラマが繰り広げられ、最後の章にその集大成としてのグランプリが書かれるといった具合です。要するにレースの外での人間ドラマが主体なのですね。
しかし、実在の競輪選手をモデルにした、あるいは複数の競輪選手を組み合わせたと思われる魅力的な登場人物たちのドラマは面白いんですよ。個性豊かですが、ちゃんとモデルがいるのでリアリティに欠けるところはありません。*1もちろん、自転車好きとして競輪を以前からしっかり観戦し、この作品のために取材を重ねてきた作者だからこそできたことでしょうけど。そしてそんな人間ドラマの中で、競輪の様々な仕組みや前提知識が自然な形で語られます。なんだか実際競輪場に出かける前に一生懸命ギャンブルレーサーを読んでいた十数年前の自分を思い出しました。
高千穂遙さんは以前、自転車好きに競輪を知ること、そして支援を訴える文章を自転車雑誌に書かれたことがありますけど(参照)、これはそういった主張を担保するための作品なのではないでしょうか。高千穂遙さんには『ヒルクライマー』という自転車小説の傑作がありますけれども、そうした自転車小説の読者、『クラッシャージョウ』など元々の作者のファン、そして自転車好きに、競輪という世界をまずは知ってほしい。そんな思いが文章の間から伝わってきます。そのため難解と言われるレースの部分はあえて簡略化したのかもしれません。
その試みが成功しているかどうかは分かりません。しかし、競輪客としては続編を望みたいのです。もちろんそこではレースの描写を厚く、そして熱く描いて欲しい。スポーツ・ミステリの傑作と言われる近藤史恵『サクリファイス』の続編『エデン』が、ミステリとしては後退してもロードレース小説としては飛躍したように。『グランプリ』で競輪に興味を抱いた読者のさらなる知識欲もそれを願っているのではないでしょうか。
繰り返しになりますが、競輪客として『グランプリ』を評価しますと、非競輪客に対する布教用の一冊と言うべきなのかもしれません。しかし、ギャンブルレーサー以降初めて出た新たなバイブルであろうかと思います。
- 作者: 高千穂遙
- 出版社/メーカー: 小学館
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- 作者: 近藤史恵
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/01/28
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- 作者: 近藤史恵
- 出版社/メーカー: 新潮社
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*1:一人、ちょっと個性豊かすぎてモデルが分からない登場人物がいますけど